2005年04月07日

脚本家への道(1)

しばらくはブログサーバーのアップグレードで更新できません。また来週お会いしましょう。本日のネタは「脚本」です。





場面:大きな屋敷の中の広い日本間で一人の老人が床に伏せている。彼を取り囲むように多数の人々が集まって老人を見ている。





老人:
・・・皆、集まっておるか?光子、定雄、伸也、それに孫達も揃っているようじゃな。秘書の安川はおるか?安川、今後の財閥の行く末に関しての詳細は遺書とともにこの弁護士の緑川先生に渡してあるから後を頼んだぞ。



老人は呼吸が苦しそうに時折小さくゼイゼイと喉を鳴らしていた。





老人:
・・・さて、中村警部。そしてお若い刑事さん。どうやら私の命もそう長くはないようなので、ここにすべてをお話させていただこうと思う。・・・そう、この事件のすべてをお話するときが来たようだ。(家族の方を向き直り)お前達もよく聞いておくがよい。



小さくどよめく一同。静寂の中、ヒグラシの鳴き声が遠くから聞こえてくる。





老人:
・・・私はこの忌まわしい事件のすべてを知っておる。もちろん、静恵が犯人でないことも最初からわかっていたし、消えた手文庫の行方に関しても知っている。そして私はここで起こった数々の殺人事件の本当の犯人を知っておる。・・・何故このような災いがこの木島家に起きたのであろう。それは戦争と、家族への愛と、そしていくつかの偶然が重なって起きた悪夢だったのだ。すべてを話すためにはまずこの木島家の歴史から話さなくてはなるまい。・・・それは戦後間もない昭和21年のことだった。復員してきた私は暑い夏の木曽路を抜けて生家を目指して歩いておった。・・・新緑がとてもきれいだったのを不思議なくらい鮮明に覚えておる。自分が生きてかえってきたことが信じられなかったが、自然の香りと初夏の風をこの身に受けてはじめて自分が生きていることを実感したものだった。そうそう、引き揚げ船でもらったシラミがとてもかゆく、ときどき道端で休んでは体をかいていたっけのう。それにしても鮮やかな木々だった。今になってあの山々の緑がこんなにも
ウッ!く、苦しい!



胸をかきむしり苦しむ老人。急に力が抜けてバッタリと横を向く。主治医がやってきて脈をとるが首を横に振り、臨終の時間を告げる。



光子:お父さん!

孫達:おじいちゃーん!

定雄:オヤジ!

伸也:父さん!

警部:木島さん、犯人は誰なんですか!畜生!なんてこった!



全員が布団のそばに駆け寄り、老人に呼びかけたがすでに遅かった。静寂の中、光子のすすり泣く声だけが聞こえてくる。すると、突然、秘書の安川が布団のそばを離れ、全員の方を向いて畳に額をつけてひれ伏した。



安川:申し訳ございません!



唖然とする一同。続いて安川の声。



安川:生前から会長はプレゼンテーションが苦手で、
持ち時間を上手に使うのがヘタでした!ご覧の通り、余計な話しをはさんでは時間が足りなくなることが多かったので、私としても会長に何度か社内研修のプレゼンテーション講座を受講するようにとすすめていたのですが、会長はいつも来月には受けると言ってはノラリクラリと逃げる始末。・・・こんなことなら首にナワをつけてでも・・・ククククッ(泣)



憮然としてたちあがり部屋を出ていく中村警部と刑事。それに続いて次々に怒って出ていく一同。夕日の差し込んできた部屋には老人の遺体と泣き伏せる安川が残され、遠くのヒグラシの泣き声はまだ続いている。安川、小さな声で「せめて私がストップウォッチを持ってきていれば・・」と泣きながらつぶやいている。ヒグラシの声が少しずつ遠ざかっていく。




(了)
posted by 鈍ツウ at 00:50| Comment(0) | TrackBack(0) | オススメ記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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