2005年07月08日

脚本家への道(5)



千鶴子はロブのプロポーズに対する返事を引き延ばしていた。このボストン産まれの52歳の銀行家に対する千鶴子の愛は何よりも強いものであったが、ロブの連れ子で14歳になるジョディとうまくやっていけるのか、いや、その前に日本人である自分がアメリカの家庭で良き母親になれるのだろうかという不安を払拭できずにいたからである。





ロブ:・・・千鶴子、心配ないよ。僕達はうまくやっていけるさ。



千鶴子:でも、私はジョディのいい母親になれるかどうか自信がないわ。



ロブ:何を言うんだ。今だって君は彼女のよき友人であり一番の理解者じゃないか。



千鶴子:(ため息)友人になることはできても良い母親になることはとても難しいわ。



ロブ:僕とジョディは亡くなった妻の事は忘れられる。今の母親は君以外にありえないんだ。



千鶴子:貴方の奥様のようにおいしいクラムチャウダーを私が作れるかしら?



ロブ:君の作るミソ・スープをどれだけジョディが気に入っていることか。



千鶴子:彼女が通うハイ・スクールの母親達とうまくやっていけるかしら?



ロブ:うまくやっていけるさ、心配ない。



千鶴子:スタンフォードに進学したいと言うジョディのために母親として何かできるかしら?



ロブ:できるとも。君なら彼女にとって最高のアドバイザになれるはずだ。



千鶴子:泡風呂に入っているときに誰か訊ねてきても「誰かしら?」と言って泡を洗い流さずにバス・ローブを羽織ることができるかしら?



ロブ:ああ、大丈夫さ。君なら流さないはずだ!



千鶴子:連続殺人事件が発生しているというのに窓の外で何か物音がすると「誰?バッキーなの?」と愛犬の名前を言ってノコノコ出ていくことができるかしら?



ロブ:ああ、君ならきっと出ていくことができるさ!



千鶴子:浮気をするときに相手の男性に抱きしめられると「だめ、主がご覧になっていらっしゃいますわ」と敬虔なクリスチャンっぽいセリフを言ってから浮気ができるかしら?



ロブ:ああ!君ならきっとうまく浮気できるさ!



千鶴子:ジョディが大音量でヘビメタを聴いていたら「いやだ、頭が割れそうよ」とスイッチを切ろうとするんだけど、うっかりエルビスが流れると踊り始めてしまうという一面を見せることができるかしら。



ロブ:見せられるとも!君ならきっとやってのけるさ!



千鶴子:ビジネスパーティで日本人に会ったときに「何でも日本人はビジネスに失敗するとハラキリをするそうですわね。」と無知と偏見をもって応対できるかしら。



ロブ:もちろんだよ!君ならきっと日本人に偏見を持つことができるさ!



千鶴子:あなたと二人で旅行に行こうとして突然キャンセルして家に帰ってみると子ども達が自宅をメチャメチャにしてパーティをやっていて、それを玄関先で見たとたんに気絶できるかしら?



ロブ:ああ!君ならきっと気絶できるさ!



千鶴子:・・・・



ロブ:・・・・・



千鶴子:・・・本当?ロブ?私たちはうまくやっていけるのね?



ロブ:本当だとも。君は立派な母親で、そして最高の妻になれるはずだ。



千鶴子:ロブ!



ロブ:千鶴子!



エル・カミーノ通りに夕闇がせまるころ。イーストパークの池のほとりで抱き合った二人の影が、希望の地の祝福を受けて長くゆっくりと伸びていった。



(了)
posted by 鈍ツウ at 19:54| Comment(2) | TrackBack(0) | オススメ記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
夕陽をバックに土手を走って勢いがついたところでジャンプしたり屋根裏を隠密が這っても「ほほ、今宵は鼠も賑やかでございますな。ま、ご一献ご一献」などと言って代官に酒を薦めたりするような純日本人の私には国際結婚は無理だと悟りました。残念です。<br />
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遅ればせながらリンクありがとうございました。ネタ系はまとめておきました。
Posted by 新井銘菓 at 2005年07月09日 23:46
国際結婚の難しいところは餅を焼いてから雑煮に入れるか初めから一緒に煮込むかでもめるところだと思います。(それは日本人同志の結婚でよくある議論だよ!)<br />
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ネタブログを広げて行きましょう。展望は全く見えないんですけどね。<br />
Posted by 鈍ツウ at 2005年07月10日 01:19
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